昭和25年の朝日新聞活字使用度数調査

書き文字が味わい深いですな




長く古本探しを続けていれば、いつかは誰でもなにかお宝に巡り会えるものですが、僕の場合はこれかな。朝日新聞東京本社による『活字使用度数調査 熟語使用度数調査』。なかでも興味深いのがここに紹介する結果をまとめたグラフ。全使用量が29,507,387本、使用母型が2,616本*1。内訳は当用漢字が1928種*2/15,080,743本/51,11%。外字っていうのは表外漢字ですね。これが456種/456,276本/1.55%。


ここでは仮名や約物もふくまれていますが、漢字だけを取り出して再作成したグラフが以下のもの。



ただし、新聞ですから表外漢字は比較的すくないはずで、この点のバイアスをどう評価するかという問題は残ります(使用割合の少ない新聞でさえも2.9%も使われたと考えるべきか否か)。ともあれ、昭和25(1950)年においても少なからず表外漢字が使われていたということが、これにより言えるでしょう。


PAGE2006のプレゼンテーションでは、『日本新聞協會十年史』から以下のような引用をしました( p.455 1956年)。

当用漢字の制定と新かなづかいの採用は、国語に大変革をもたらした。(略)しかし変革期の混乱は新聞紙面に現われ、表外漢字使用をはじめ漢字とかなの抱き合わせ使用(例、語彙=語い)その他が、各社不統一のまま日常の紙面に見られた。

冒頭に掲げた朝日新聞調査は、上に書かれたような「変革期の混乱」を、裏付けるものであると考えます。巷間JIS批判として「鴎」の字はバツが正しいか品が正しいかなどと甲論乙駁ありましたが、大局から見れば、むしろ表外漢字に規範が存在していない問題だと考えた方がすっきりします。だとすれば、じつはこの問題、当用漢字制定時から存在していた訳です。しかも、

わが国において用いられる漢字(中略)を制限することは,国民の生活能率をあげ,文化水準を高める上に,資するところが少なくない。(『当用漢字表の実施に関する件』1946年 内閣訓令第7号)

と、はっきりと当用漢字表外の漢字使用が制限されていた昭和25年時点にして、この数字であることに注意すべきです。


ところで『表外漢字字体表』(2000年国語審議会答申)によれば、1997年、2000年の凸版での調査で、常用漢字の使用率が約96%と報告されています。ということは、興味深いことに戦後50年を閲しても、日本人の文字生活はたいして変わっていなかったということになります。


2000年の表外漢字字体表、2004年のJIS X 0213改正、そして今年末に発売が予定されているWindows Vista におけるMSフォントの文字デザイン変更と、ここでとりあげた調査以降、大きな一連の動きがありました。これがわれわれの文字生活にどのように影響を与えるのか、刮目するとはこのようなときに使うべき言葉でしょう。

*1:この「使用母型」、今となっては分かりづらいかもしれないが、つまり1つの母型は1つの字形を表すわけです。つまりこの調査では全部で2,616文字がリストアップされたと言うこと。ということは当用漢字表が1,850文字だから、差し引き766文字の表外漢字が使われていたことになる。

*2:この数字が当用漢字表1,850字よりも多いのは、当用漢字の異体字も使用されていたと考えるべきではないか。だとすれば当用漢字字体表の実際の有効性を考える上でヒジョーに興味深い。