『「強い禁則」は主流か?』への回答と、その反論[追記あり]

先日公開したエントリ『「強い禁則」は主流か?――『日本語組版処理の要件』へのフィードバック』W3C Japanese Layout Task Force に送ったところ、メンバーである小林敏さんから以下のような回答をいただきました。なお、回答は11月21日付です。

小書きの仮名と音引きの行頭禁則文字からの削除を求めていますが,結論は,特に変更の必要はないだろう,というのが私の考えです.

また,小形さんは“複数の禁則処理のモードを規定する方法も考えられるが、その場合はデフォルトを「弱い禁則」とすべきだろう。”と述べています.しかし,このことに関連していうと,附属書Cでは,複数の処理法があることを説明しており,また,小書きの仮名と音引きの行頭禁則文字から外す方法をデフォルトとしています.

そして,基本的には,JIS X 4051の記載を尊重して,この要項は書かれています.JIS X 4051で本則として小書きの仮名と音引きを行頭禁則文字に含ませている以上,はずすわけにはいかないと考えます.

また,“3.1.7 行頭禁則”の注1に,書籍では,小書きの仮名と音引きを行頭禁則文字に含ませていない例が多いことも記載しています.

なお,小形さんは,拗音と促音に使用する小書きの仮名とそれ以外を区別しています.これは“ちょっとした個人的興味である”と書かれていますが,それは意味のあることです.実は,小書きの仮名については,平仮名と片仮名を区別する考え方があったからです(過去形でしか書けないことでしょうが).

“新編 校正技術”の225ページに,小書きの仮名を行頭禁則とする件に関連し,次の記載があります.“?平仮名は許容するとしても,片仮名は許容しないとする方針もある.”

このような方針は,最近はほとんど目にしないというのが実態でしょう.しかし,書かれる理由があったからです.その理由というのは(以下は,先輩の校正者からの伝聞です),歴史的には小書きの仮名は,ずっと昔は禁止されることが多かったようです.それが,小書きの仮名は許容できるだろうとなったのですが,まず平仮名が許容され,片仮名はやはりまずいだろう,という時代があったというのです.しかし,いったん許容とされると,平仮名と片仮名は区別する必要がどこにあるの,となって,平仮名が許容されると,あっという間に片仮名も許容されていったようです(この説明を聞いたのは約40年も前の話です).


後述しますが、この回答の後に何回かやりとりしました。その内容を踏まえつつ、自分なりに小林敏さんの主張をまとめると以下のようになるでしょう。

  • 『要件』で強い禁則にしているのは、JIS X 4051でそのように規定しているからだ。そうである以上、JIS X 4051を尊重する『要件』としては禁止と書かざるを得ない。
  • ただし、「弱い禁則」が多数を占めている実態は理解しており、そのために3.1.7 行頭禁則の注や、3.1.10 分割禁止の注附属書C(そのうちC.2注記C3.補記でも)等々で各種許容を書いている。
  • とくにC3.補記では、これら許容のまとめとして、新聞、雑誌、デフォルト一般書籍、一般書籍の4つのレベルに分けて禁則処理を記述している。なお、デフォルトのレベル3では、繰り返し記号の「々」、長音記号、小書きの仮名の3つを禁則しており、これは「弱い禁則」にあたる。

その上で小林敏さんからは、以下のような改訂案が示されました(【 】内が追加部分)。

注4) 行頭禁則及び次項で解説する行末禁則の詳細は,“3.9 文字クラスについて”で説明する文字クラスに従い,表の形式にして“附属書B 文字間の空き量”で示す.【また,行頭禁則及び行末禁則は,分割禁止と考えることもでき,これらを含めての詳細は,“附属書C 文字間での分割の可否”で示す.】

つまり、3.1.7 行頭禁則の注4において、附属書Bだけでなく附属書Cの名前も挙げるようにするということです。

これに対して、小形の返答は概略以下の通りです。

  • 『要件』がJIS X 4051に基づく以上、本文で「強い禁則」以外は禁止と書かざるを得ないことは理解した。
  • 附属書Cで行頭禁則の許容にふれていること、とくにC3.補記で禁則処理のレベル分けをしていることは、小形の見落としてあり深く陳謝。
  • その上で、3.1.7 行頭禁則の注で附属書Cを名前だけ参照しても、「『要件』は強い禁則以外は禁止している」というミスリードを解消できないと考える。
  • むしろ本文を緩和する条項が各所にありこと、とくにC3.補記では4つの禁則処理のレベル分けをしていることを具体的に書いた方がよいのではないか。

つまり、改訂案の表現の問題に限定して異議を唱えました。ようするに「もっと分かりやすく書けないか」ということですが、残念ながらこれは容れられることはありませんでした。

その理由としては、この文書の主な読者は実装者であり、詳細が示されている附属書まで読まなければ実装はできない。それゆえに本文で全部書かなくとも細部までちゃんと読むだろうということのようです。

その後、もう一度冒頭から『要件』を読み直してみたのですが、やはり示された改訂案では不足を感じます。問題は現状の書きぶりにあります。本文では強い禁則以外は禁止しているのに、それ以外の随所でそれを緩和しています。こうした本文と注・附属書の間の食い違いは、他の条項にはないことです。

JIS X 4051に準拠しなければならないのですから、食い違い自体は仕方ありません。しかし複雑にすぎて、読者の理解を妨げていることも確かであり、なるべくそれを解消するような書きぶりが求められるはずです。具体的には「注5」を新設し、以下のように書いてはどうでしょう。

【注5) 注1〜3で示した様々な許容についての詳細は,“附属書C 文字間での分割の可否”で示す.そのうち“C3.補記”では,用途に合わせたレベル別の禁則処理を説明する.】

言い遅れましたが、『要件』は11月29日に第2版のワーキングドラフトが公開されています。上掲の文章でのリンクも、新しいドラフトへのものとしています。

できればこの機会に、一人でも多くの方々が意見を送っていただければと思います。

追記(2011年12月2日)

このエントリの公開後、すぐに小林敏さんから再度改訂案が示されました(決断早いなあ)。その内容は拙論を取り入れたもので、とてもありがたく思いました。改訂案は数週間後に開催される W3C Japanese Layout Task Force の審議をへて反映される予定です。その文言等は正式版にてご確認ください。

なお、ワーキングドラフトへのコメントは以下のページから送ることができます。ページは英語で表記されていますが、メンバーは日本人が過半なので日本語でも大丈夫じゃないかと思います。締切は12月末日。