「シンポジウム電子書籍の組版を考える」の発表内容が公開

昨年8月に開催された文字の学校主催「シンポジウム 電子書籍組版を考える」での発表全文が公開されています。

電子書籍の御利益というと、真っ先に浮かぶのがリフロー表示ですが、リフローしても見やすい画面表示(組版)を確保するには、まずそのための組版ルールが必要の筈です。本来はこれほど衆知を集めるべきテーマはないと思うのですが、残念なことにこれを正面から取り上げたのは、この半年も前に開かれた上記のシンポジウムが希少例というのが現実です。

その貴重なシンポジウムの内容が、ようやく公開されました。

じつは、このシンポジウムのレポート原稿をずっと書いているのですが、なかなか完成できずにいます。上記のページは、その原稿用に作成した音声起こしが元になっています(もちろん、発表者の皆さんがチェックを入れているので、そのままではありません)。

ここで示されている考察は、リフローと組版を考える上でどれも大変貴重なものです。一人でも多くの人に読んでいただきたいと思います。

ただし、一ヵ所だけ起こしながら気になったところがありました。

この中で、以下のような一文があります。

で、つらつら、そういうふうになった歴史を検討してみますと、『Requirements for Japanese Text Layout(日本語組版処理の要件)』からCSSへという、そういう歴史に、私は敬意を表しますけども、line-breakで禁則処理については強い禁則をスタンダードとする誤りを日本から海外へ発信してしまった。

この部分、間違いとまで言えませんが、そのままでは『日本語組版処理の要件』の内容が誤解されそうで心配です。

この件は、以前のエントリでも触れました。改めて述べると『日本語組版処理の要件』は行頭禁則について以下のように述べています。

終わり括弧類(cl-02),ハイフン類(cl-03),区切り約物(cl-04),中点類(cl-05),句点類(cl-06),読点類(cl-07),繰返し記号(cl-09),長音記号(cl-10),小書きの仮名(cl-11)及び割注終わり括弧類(cl-29)を行頭に配置してはならない(行頭禁則).これは体裁がよくないからである.
3.1.7 行頭禁則

ここでは長音記号や小書きの仮名を禁則文字として列挙し、さらにその根拠(?)として〈体裁がよくないからである〉と極めて強い調子で述べています。この本文だけを見ると強い禁則を規定していると思われても仕方ありません。

しかし現実には、同項目の注1〜3では弱い禁則の許容条件も述べています。また「附属書C 文字間での分割の可否」のC.2 注記では弱い禁則の実現方法を詳細に述べています。

さらに同C.3 補記を読むと、禁則を全部で4つにレベル分けして定義していて、弱い禁則もここに含まれているのです。

シンポジウムでの音声起こしを提供するにあたり、前田さんと若干のやりとりをしましたが、前田さんは本文で強い禁則を規定していることを重く見て先の言い方をしたようです。しかしぼくは、この言い方では、注や附属書で弱い禁則も規定していることが見落とされてしまうことを心配します。そこで、このような蛇足を書いた次第です。

なお、この行頭禁則の規定を海外の人々がどう受け止めたか、その一例としてW3C “CSS Text Level 3” を挙げておきます。ここでは行末禁則を実現するline-breakプロパティのデフォルトを強い禁則を意味する「strict」ではなく、UAの実装に依存する「auto」を割り当てています。同じことは、シンポジウムでも「全体討議」で村上真雄さんが指摘しているので、ぜひご参照ください。