1996〜1998年に何がおきたのか?

パソコン/ワープロ専用機の普及率


ただ今、1996年から1998年にかけて、パソコンとかインターネットはどのように受け容れられていたのかを調べております。


まず、冒頭のグラフを見ていただきましょう。これは1987年から2005年までのパソコンとワープロ専用機の普及率。出典は内閣府経済社会総合研究所『統計のページ』*1です。


これを見ると、ワープロ専用機が先行して普及していき、これが1998年をピークに下降し始め、一方パソコンは'90年代中盤からグイグイ上昇し始め、やがて2000年を境にワープロ専用機と逆転していることが分かります*2。つまり、90年代中盤から後半にかけては、パソコンよりもワープロ専用機の方がずっと普及していたわけです。




おつぎのグラフがこれ。これはニフティの新聞・雑誌記事横断検索で、朝日、読売、毎日、産経の4大全国紙を対象に、1990年から1年ごとに「パソコン」「インターネット」が見出しに含まれた件数を集計したもの。



インターネットは1993年まで件数ゼロです。ところが1994年あたりから急上昇、翌1996年には、なんと2,436件というものすごい件数に達します(3年前までゼロなんですよ!)。ところが急転直下、次の年からガクンと下降します。面白いことにパソコンもほぼ同じカーブを描いており、やはり1996年にピーク(2,214件)をむかえた直後に下降に転じ、その後持ち直すがすぐにまた下降していることが分かります。


いったい1996年になにがあったというのでしょうかね。それを考える上で興味深いのが次のグラフ。これはインプレス『インターネット白書』によるインターネット人口の推移から、変化が分かりやすいよう年間の特定の集計値だけ抽出したものです*3



調査は1997年からはじまっているんですが、グラフでは分かりませんがこの年はインターネット人口はわずか571万8000人なんですよ。この年以降、グラフにあるように順調に上昇をつづけ、2005年は7007万2000人にも達しています。


つまりですね、先の全国紙における「インターネット」「パソコン」の氾濫の頂点である1996年は、まだインターネットの普及率という意味ではほとんどモノの数ではない(ま、統計とってないので推測ではありますが)。なのに、7000万人もネット人口がいる現在なんかより10倍も多く新聞の見出しに使われていたという異常な状態(2005年の件数はインターネットが237件、パソコンが967件)。しかも、繰り返しになりますが1996年は、まだワープロ専用機の方がパソコンよりもずっと普及していたのが実態だったんですね。


ここから見えてくるのは、90年代中盤から後半にかけて、パソコン、とくにインターネットというものは、イメージ先行で、実態の裏付けのない過剰な期待が寄せられていたということでしょうね。世間でものすごく騒がれているわりに、インターネットはもちろんのこと、パソコンを使っている人は意外に少なかった。このような雰囲気の中では、パソコンやインターネットを使っていない人は、「自分は遅れているのではないか」という一種の強迫観念を持ちがちであると言えないでしょうか。


こういういびつな状況の中で、いったいどういう言論が形成されたのか、ということに僕は興味があります。じつは、1996年から1998年とは、主に日本文藝家協会が主導しておこなわれたJIS批判、『漢字を救え!キャンペーン」がおこなわれた年であります。同協会は国語審議会に対して、文字コードに関する要望書を提出しています。


ちなみに、1996年はデジカメがじつに23社から発売され大ブレイクした年ですし、携帯電話とPHSが合わせて前年比倍増の2000万台以上売れた年。そしてWindows 95の日本における発売は、前年11月23日なんですね*4

*1:2005(平成17)年の消費動向調査普及率(http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/0403fukyuritsu.xls)、及び2000(平成12)年同調査(http://www5.cao.go.jp/2000/f/0421shouhi/0421shouhi.xls)による。ちなみに世の識者がよく引く普及率のデータは大抵ここのもので、押さえておくとすご〜く便利です。

*2:ワープロ専用機についての内閣府調査は2001年が最後。その後まで追跡してほしかった。

*3:『日本のブロードバンド人口は3,224万4,000人』(http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/06/07/7916.html)のうち、「インターネット利用者数推移(1997〜2005年)」のグラフから各年2月のデータのみを抽出。

*4:『現代風俗史年表』増補2版 世相風俗観察会編 河出書房新社 2001年