第2次パブコメの審議が開始(第38回漢字小委員会)【追記あり】

本日午前10時から、文部科学省庁舎にて第38回漢字小委員会が開催されました。議題は、去年末に実施された第2次パブリックコメントで寄せられた意見の審議です。なお、配布資料は小熊さんのページから入手可能です。

全体的な流れについて

寄せられた意見は、全部で272通。事務局の手によって以下の4種に分類されました。

  1. 基本的な意見(40件)
  2. 字種の追加・削除(244件)
  3. 音訓の追加・削除(19件)
  4. 字体(67件)
  5. その他(27件)

カッコ内の数字が272を越えるのは、1通の中に複数の意見がふくまれるためです。例えば10字の追加を要望した場合、これは10件の意見とカウントされます。

この日審議されたのは上記のうち1と2で、次回1月29日に予定される第39回で3以降が審議されます。これらをうけて漢字ワーキンググループが新たな原案を作成、これを2月〜3月に3回程度をかけて審議し、4月に予定される国語分科会総会に最終答申案を提出する予定です。つまり改定常用漢字表の答申は、現在のところ4月中の予定です。

追加字種への「意識調査」について

審議に入る前に氏原主任国語調査官より、追加196字種についての意識調査を実施することが発表されました。これは、以前から必要性が指摘されてきたされてきた読み書き能力調査に代わるものです*1文化庁では毎年秋に「国語に関する世論調査」を発表しますが、この枠組みを利用して調査対象を例年の3,000人から6,000人に倍増して実施する予定です(調査は面接方式です)。

ただし、読み書きのうち対象となるのは「読み」だけ。また漢字を示して読めるかどうかを直接聞いた場合、回答拒否が多くなる懸念があります。そこで示した漢字に対して、あらかじめ用意した「漢字にした方がよいと思われるもの」「読みにくいので振り仮名をふった方がよいと思われるもの」等の設問のいずれかを選択するという、一種の「意識調査」として実施するとのこと。

この種の調査については、たとえばNHKでも大規模な読み書き能力調査を実施していますが、これは高校3年生を対象に絞ったから可能だったと考えられます。改定常用漢字表の参考にする以上、子供から老人まで広い年齢層を対象にしないと意味がなく、となると設問や調査方法を工夫しない限り実施が困難でしょう。そこで、この「意識調査」という方法が考えられたとのこと。

すでに去年12月1日、官報に調査に対する入札公示を掲載しており、2月1日に開札、即座に調査を開始して3月中には速報値をだし、なんとか漢字小委員会の審議に間に合わせたい意向です*2

字種以外の審議について

審議は、意見の中から座長が取り出したテーマについて、委員が自由に意見を言うという形式ですすめられました。しかし、座長から投げかけられる質問に対する反応は全体的に低調のように思いました。

  • 漢字表の名称について→反応なし
  • 追加字種は馴染みが薄いので答申の中で何か対処法を示したいが、ルビ・振り仮名は有効。これを答申に盛り込むに際して、どういう呼称を使えばよいか。→ルビは一般に馴染みが薄い。/教科書では「振り仮名」。/ルビは漢字の習得段階では必要かもしれないが、基本的には漢字はそのままの形で使うべき。
  • 漢字表の配列を現在の五十音順から部首順・画数順などに変更することについて→反応なし

字種「玻、鷹」について

議論が比較的低調なまま字種の検討に入ります。議事を報告する前に字種について整理しておきましょう。パブリックコメントでは、次のような字に、多くの意見が集まりました。

  • 玻(95件、前回0件)、碍(86件、前回20件)、鷹(24件、前回23件)

最も多かった「玻」については昨年11月、パブコメ開始のちょうど数週間前にあった、次のような新聞報道が大きく関係しているものと思われます。

「玻」について出された主な意見は以下の通りです。

  • 金武:この字を使いたいという希望は出来るだけ叶えてあげたいが、これは人名用漢字への追加希望としての検討が必要で、常用漢字への追加というのとは違うのではないか。
  • 阿辻:かつて「悪魔ちゃん事件」というのがあったが、「悪」も「魔」も常用漢字常用漢字であれば全て人名に使えるが、100パーセント人名にふさわしい漢字と限らない。今回のコメントを拝見しても「親御さんの気持ちがよく分かる」とか「良い名前だ」とあって、それは人名の話のように思える。それは法務省に言うべきではないか。「玻」についてのデータは事務局はお持ちか?
  • 氏原:……漢字頻度数調査では3,949番。
  • 阿辻:選ばれるほど頻度は高くないわけですね。

つづいて「鷹」について。これについては金武委員の発言のみ。

  • 金武:前回と同じ自治体の人達が意見を寄せてきた。これについては前回追加しなかった理由と同じことが言えるのではないか。つまり、固有名詞は常用漢字表の適用外なので自由に使えるわけだから、実施問題として支障はないのではないかと思う。

字種「碍」について

つづいて話題にのぼったのが「碍」の問題。ここで一転して活発な議論が交わされるようになります。主な意見は以下のとおり。

  • 金武:「碍」については、この漢字小委員会で考えるよりも、より広い専門的な立場で考えられるところにまかせた方がよいのではないか。
  • 内田:「碍」の字を入れていただきたい。ウ冠の「害」を使うのはやはり良くない。厄介者と思われてしまう。使うなら石偏の「碍」か、交ぜ書きだろう。「障がい者制度改革推進本部」の話が出たが、総理の挨拶で言われた「平仮名の「がい」を使うことに意味がある」というのは、私はウ冠の「害」を使わないことに意味があるということだと受け止めた。「碍」を入れていただきたいと思うし、これは漢字小委員会の仕事であると思う。社会的な偏見を引き起こさないようにしたい。
  • 氏原:この言葉については、前に説明したのと同じ状況。つまり、団体によって考え方が違う。「ショウガイ」という言葉ではなく、違う言い方を考えるべきとおっしゃる人もいる。先ほど話に出た鳩山総理も、例えばとして「チャレンジド」という言葉をだした。それが良いかどうかは別だが、「ショウガイ」に代わる言葉を探す考えというものある。障がい者制度改革推進本部で表記を考えるというのは閣議決定されており、政府全体の問題。そういう中で国語分科会が決めてしまってよいのかどうかという考えはある。今日のところは自由に意見を出してもらうい、先生方がどういう考えなのか伺う中で、どういう在り方がよいのか考えた方がよいように思う。
  • 納屋:今の「ガイ」については、臨時国会の所信表明演説でふれており、これは交ぜ書きで表記していた。そうした動きに対して、漢字小委員会が先行しない方が良いように思う。
  • 足立:自分は健常者なので、「ショウガイ」の「ガイ」についても、何も考えずに使ってきた。交ぜ書きにすればよいというのではなく、やはり漢字の持っている意味を考えるべきだろうと思う。考えずに「害」の字を使っているところに問題がある。
  • 出久根:今の時代を反映させる言葉を入れるべき。「障碍」の「碍」などは10年前には考えもしなかった。私共の委員会はそういう言葉も取り上げて検討すべき。「障碍」という言葉は一番大きいことではないか。
  • 東倉:「ショウガイ」は漢字の問題ではないと思う。それに代わる新しい言葉を出していくべきだと思う。その検討を政府が始めたのだから、それを見守りたい。
  • 納屋:鴎外をみると「ショウガイ」は石偏の方の「碍」で出ている。それをルビを使って読んできたのだと思う。当用漢字は漢字を減らし、すこしでも分かりやすいようにしようとして「害」だけにした。しかしこれから国として様々な施策が出てくるのだと思う。学校の方でも特別支援学校というものをつくって対応してきた。もう少し見守りたい。
  • 松村:自分はなるべく常用漢字表の字数を増やさない方向で考えてきた。前回も、もし「障害」にマイナスイメージが強いなら交ぜ書き表記も考えられると言った。ところがパブリックコメントを読むと「交ぜ書き表記は哀れみ、見下した意図を感じる」という意見が複数あった。自分自身、ショウガイを持たない立場で、そういうことを考えずにきたのかと思った。自分は去年3月まで特別支援学校に勤務してきた。差別意識を持たないよう、子供たちにも話してきたつもりだ。結果的には「ショウガイ」の「ガイ」については交ぜ書きにしてきた。いろいろ考えたのだが「碍」にも妨げの意味があるわけで、ここで石偏の「碍」を常用漢字に入れることで、かえって「ショウガイ」という言葉の意味を固定してしまうのではないか。もっと他の見方があるのではないか。新しい言葉が必要だと思う。結論はでないが、「碍」をいう漢字を入れることで、考え方を固定化してしまう懸念が拭えない。入れることに賛成/反対という意見表明はできない。やはり「障がい者制度改革推進本部」の判断を見守りたい。なお、新聞の投稿欄に「何でも挑戦しなければならないチャレンジドという言葉には反対である」というショウガイ者自身の意見があった。やはり漢字を変えるよりも言葉の言い換えが必要ではないか。
  • 内田:「碍」は止めるという意味でニュートラル。意味を考えると「碍」がよいのではないか。
  • 阿辻:「碍」は明らかにマイナスイメージの字で、ニュートラルではない。
  • :中国語の立場からは色々あるだろうが、漢字というのは語源も大事だが使われ方も大事。なかなか結論が出しにくい。
  • 阿辻:ショウガイ物競走というものは、妨げになる物を置いて競争するもの。これは「障碍」と書くのが正しい。これがなぜウ冠の障害物競走になるのか。
  • 出久根:自分の小学校の時は、「ショウガイ物競争」は石偏の「碍」を使っていた。もちろん当用漢字の時代だが、子供たちは誰もそれを気にしなかった。おそらくそれを書いた先生が戦前の教育を受けていたのだろうが。
  • 松村:今は「ショウガイ物競争」というものをやっていない。競技としてはあるが、ネーミングを工夫している。「野越え山越え」とか。「ショウガイ」という言葉そのものを使わないようになっている。
  • 阿辻:オリンピックでは「障害走」というものが現実にあるが。
  • 松村:(虚を突かれたように)そういえばそうですね。学校の中では……私の勤めていた学校だけなのかしら……。
  • 阿辻:文部省に聞かないと(笑)

ここまでで「碍」の字について話は終わりました。もう少しノートに記録したものはあるのですが、長くなってしまったので残りは次回にも公開される議事録をご確認ください。なお、以上は小形のメモによって再現したものです。よく聞き取れずに部分的に省略したものもありますし、そっくり省略した発言もあります。重々その点をお含みおきください。

追記:勺、匁」の復活について

昨日は「ショウガイ」のまとめで力尽きてしまいましたが、大事なことを一つだけ追加報告しておきます。改定常用漢字表では「勺、錘、銑、脹、匁」の5字を削除することになっていましたが、このうち「勺、匁」の復活が提起されました。
「ショウガイ」の話が終わった後、林副主査が削除字種について意見はないかと話をふったところ、阿辻委員からこの話が出ました。同委員は追加5字種を尺貫法である「勺、匁」と、産業に使われる「錘、銑、脹」の2グループに分類可能とした上で、前者は度量衡の体系なので今後も使われる可能性があり、残すべきではないかと提起しました。
それに呼応して出久根委員、金武委員も同調します。金武委員は、さらに続けてこれらの字を復活させた場合に、追加196字種を削って全体の字数を調整すべきではないかと発言しました(コメント欄16番目の小形発言も参照)。同調した委員が多いことから、これらの字が復活する可能性は高いように思います。

*1:これまでの経緯については12月25日「改定常用漢字表試案への意見」の「〔総合〕読み書き能力調査をしていない件」をご参照ください。http://d.hatena.ne.jp/ogwata/20091225

*2:それは無理でしょう!? と審議後のぶら下がり取材で氏原主任国語調査官に言ったところ、苦笑いしていました。このスケジュールは相当無理があります。また漢字ワーキンググループ内にも調査の必要性について積極的な意見ばかりではなかったそうです。しかし難点はあっても調査は行い、筋を通したいということなのだと受け取りました。しかし、こんなに急いで正確な結果が出るのでしょうか…