第3回ワークショップ: 文字の公式レポートが公開

7月18日に花園大学拈花館*1で開催された「第3回ワークショップ: 文字」の公式レポートが公開されています。


ぼく自身の発表については、先日のエントリで配布資料を公開しましたが、ここでは個々の発表について、簡にして要を得たまとめをしてくれています。もろさん、グッジョブ!

個人的には高田さんと、もろさんのご発表が非常に参考になりました。とくにもろさんの発表は考えさせられました。じつは「字体」という考え方はそんなに安定的なものではないのです。

漢字の字体について、もっとも早いまとまった文献は、おそらく当用漢字字体表です。そしてそれを継承・発展したのが常用漢字表です。しかしそこでの考え方を突き詰めていくと、いくつか抜けているところがあります。「ここで言う〈字体〉と、ここで言う〈字体〉は違う概念では……??」というような。

それから、もちろんJIS X 0208:1997で示された包摂基準は、漢字字体を考える上で常に参照すべき文章です。しかし、これはあくまで文字コード規格ですから、法令文字の包摂除外など純粋に字体を考える上で邪魔なものが多いのも確かです。

視覚的に漢字字体を確認できる資料として、HNG(漢字字体規範データベース)は筆頭にあげられる存在ですが、ここでは「規範」と言うくらいで対象にしているのは楷書だけです。このことはHNGの価値を落とすものではありませんが、それでもHMGだけで漢字字体すべては分からないのも確かなことです。ただし楷書の歴史については、やはりHNGの蓄積はずば抜けています。

おそらく字体について最もまとまった考察は大熊肇さんの『文字の骨組み』でしょう。

文字の骨組み―字体/甲骨文から常用漢字まで

文字の骨組み―字体/甲骨文から常用漢字まで

ここでは字体を、①書体ごと、②手書きと印刷、③通用と正字体の3つのレベルにより説明を試みています。この「書体ごと」というレベルが加わっているのが先行研究にない美点です。しかし個人的には「正字体」という中立的でない呼び名の使用に違和感があります。それでもこれは、書家としての著者のゆずれない一点でしょう。そう、この本は書を実践する書家の「想い」が出発点なのですね。であるなら、この本の成果をどう位置付け、どう評価するのかは研究者の役目だと思います。

今必要なのは、先日もろさんが提起した基礎作業を踏まえた上で、今のところバラバラにおこなわれている先行研究を関連づけ、統合化していく作業ではないかと思います。そういう議論ができる場を、新たに発足した「文字研究会」が提供してくれるとありがたいなあ。

*1:「ねんげかん」と読む。釈迦の故実「拈華微笑」(ねんげみしょう)からとったそうです。