「曽、麺、痩」の3字のみを略字体とする妥協案を提示

11月25日午前10時より第28回漢字小委員会が開催され、前回に引き続き常用漢字表に追加予定の191字を、どのような字体で示すかが審議された。今月11日に開かれた前回では、表外漢字字体表で示された印刷標準字体(いわゆる康煕字典体)とするか、それとも従来の常用漢字表で示された略字体とするかで委員会内が真っ二つに分かれ、激しい議論の応酬があった。これをうけて、原案を作成する漢字ワーキンググループ(以下、漢字WG)が、この日どのような案を提示し、対立を収束させるかが注目されていた。


漢字ワーキンググループの検討結果はこの日配布された『「追加字種・字体」についての基本的な考え方(案〕』としてまとめられた。そこでの骨子は2点。

  • I 本表の掲出字体について
    • 本表の「漢字」欄は、「印刷標準字体」を掲げる。ただし、簡易慣用字体を持つ3字については、その字体(具体的には「曽」「麺」「痩」)を掲げる。
  • II 手書き字形に対する手当について
    1. 3部首許容(「しんにゅう」「しめすへん」「しょくへん」)を認める。
    2. 「印刷標準字形(明朝体字形)」と「筆写の楷書字形」との関係を示す。

(いずれも同文書より)


I の掲出字体については、あくまでも印刷標準字体(以下、いわゆる康煕字典体)で示すのが基本となる。ただし、そのうち3字だけは略字体で示すという、これはいわば妥協案と言える。

漢字WGでの検討段階では、途中段階までは分かりやすさのためにも総てをいわゆる康煕字典体にすべきという意見が主流だったとのこと。それでもこの3字だけを略字体にしたのは、前回の反対意見をふまえた結果「生活漢字としての側面を併せ考慮した」(同文書)ことにより採用したもの。

これら3字は書籍等ではいわゆる康煕字典体の方が頻度が高い実態が凸版調査等により明らかにされているが、「5〜6時間にわたるギリギリの検討をした結果」(氏原主任国語調査官)、カップラーメンのパッケージやダイエット広告等、生活に密着した中ではこれらの字体が使われているようだという認識により採用された。

また、II の「手書き字形に対する手当について」は、表外漢字字体表における「字体・書体・字形にかかわる問題とその基本的な考え方」のうち「(3)印刷文字字形(明朝体字形)と筆写の楷書字形との関係」のいわば改訂版を示そうというもの。ただし具体的な方法など詳細については、まだこれからの検討となる。


さて、この日もっとも議論になったのは、「I 本表の掲出字体について」の冒頭の部分、すなわち「本表の「漢字」欄は、「印刷標準字体」を掲げる」という箇所への賛否だ。これについて前出『「追加字種・字体」についての基本的な考え方(案〕』は、以下の5つの理由を挙げている。

  1. 当該の字種における「最も頻度高く証されている字体」を採用する。
  2. 国語施策としての一貫性を大切にする。
  3. 「新常用漢字表(仮称)」の「目安」としての性格を考慮する。
  4. 印刷文字としての字体を示すことが基本である。
  5. 文字コードにおける採用字体との関係を考慮する。

このうち、もっとも力点を置かれて説明されたのが5の文字コードとの関係。注意すべきは、ここでいう文字コードとは国内規格であるJIS X 0213よりも、むしろ国際規格UCS(ISO/IEC 10646*1であり、これと一対一対応がとれなくなるという問題点*2であるということだ。

具体的にJIS X 0213:2004(2004JIS)で追加された10字が、どういう齟齬が発生するゆえに追加しなければならなかったのか例にとりながら、既にUCSで統合されているコードポイントを分離するむずかしさが説明された*3。さらには、こうした国際規格を無視して国内規格を作ることも不可能ではないが、「その場合は非関税障壁になってしまう可能性を指摘する声もある」(氏原主任国語調査官)と、なかば脅しともとれる論法まで動員されて必死の説明(というより説得か)がおこなわれた。

こうした説明に対する委員達の反応だが、今回もまたきれいに二つに分かれることになった。

(遅くなったので、つづきはまた明日にでも)

*1:国内ではJIS X 0221として知られる。なお、Windows VistaMac OS Xに実装されているUnicodeとレパートリを共有している。

*2:詳細については既に同じ問題を指摘した拙稿(http://internet.watch.impress.co.jp/cda/jouyou/2008/07/25/20379.html)を照会されたし。

*3:興味深いことに、藪蛇になることを恐れてか、互換漢字については一言も言及されなかった。