ポッドキャストを公開

先日の京大での発表を、ポッドキャストにて公開しました。

ぼくのカラオケ

なんでカラオケかっていうと、セミナーや発表って、一人でマイクを握って普段の思いの丈を存分に吐き出せるって行為な訳で、これってカラオケとよく似ているなあと思うのはぼくだけでしょうか。自分一人でうっとりしていると、途端に聞き手がそっぽを向くのも一緒。


このポッドキャストですが、京都大学人文科学研究所という場所柄もあり、なんの説明もなく『説文解字』(後漢1世紀の許慎が編纂した現在残る最古の漢字字書、以下、説文)にふれ、これで甲骨文字を分類しようとしているIRGに疑問を呈しています。このあたり、説文を知らない人には不親切な内容ですね。

また、「説文部首順で甲骨文字を分類する不条理」というのが立論の大きな柱になっているのですが、本来その例として「史、使、事、吏」にあたる甲骨文字が、「使、史、事」は史部、「吏」は一部という説文部首順で分類されることを、IRG文書「IRGN1271OldHanziPrinciplesV2.pdf」を引きつつ説明しようとしたところが、発表の当日の朝になり誤訳をしていることに気づいて大修正した結果、論旨が一貫せずに分かりづらくなってしまったのも大きな反省点です。

どういうことかというと、以下の英文。

5.4 The shapes of the Original Oracle Bone inscriptions are the same but they have many meanings and usages. Eventually, they have evolved into different characters. The glyph of these characters will be determined according to the shapes of the Original Oracle Bone inscriptions, and put under the corresponding radical in Shuowen. e.g. 史吏事.
(p.15)

これをぼくは以下のように訳したんですね。

甲骨文字の形状は同じであるが、それらには多くの義、そして使用法がある。結局それらは異なる文字に進化した。これらキャラクターのグリフは、甲骨文字の形状によって決定され、説文で、対応する部首の下に置かれることになる。例えば史、吏、事。

「対応する部首」つまり対応する別々の説文部首とぼくは理解した。ところが、この英文とは別に中文もあり、これは以下のようになっています。

甲骨文同形多用,後世分為多字,依甲骨文字形分別隷定,歸入《説文解字》相應同一個部首。如:“史”、“吏”、“事”。
(書き下し)甲骨文は同形多用、後世分かれて多字をなす。依りて甲骨文の字形を分別して隷定、「説文解字」に相応する同一部首に帰入す。“史”、“吏”、“事”のごとし。

ここにははっきり「相應同一個部首」とあり、すなわち“史”、“吏”、“事”は同じ部首に分類されると読める。英文の方も「same radical in Shuowen」とでも書いてくれていればこんなことにならなかったのですが、ともあれ、英文だけ見ていたぼくの不注意には違いない。これに気づいたのが発表当日の朝というわけです。

じつは他の例からも説文の別々の部首に分類しようとしていることは分かるので、結論そのものがこの誤訳によって変わることはないのですが、それでもこの“史”、“吏”、“事”の例によって論を立てているので、大きな影響を被ってしまう。正直なところ、3分くらいはこのまま知らんふりをしようかと思ったことを告白します。しかしまあ、それは悪魔に魂を売り渡すようなことですよね。幸いぼくの発表は午後からだったので、遅刻することにして数時間かけて修整しましたが(もしも午前中だったらと思うとぞっとする)、それでも既存の材料を差し替えるわけにはいかず、結果として首尾一貫しない内容となってしまいました。録音の最初の方で言っている「予稿集の○○ページはバッテンしてほしい」というのもこれのことです。

というような、大変お粗末なものですが、それでよろしければどうかお聞きください。