京都大学の東洋学セミナーへ


24日は朝5時にとび起き、寝ぼけ眼の子供を連れて新幹線に。京都大学の東洋学セミナーに参加するためです。この日が春休み初日の子供を、京都駅までお出迎えのお婆ちゃんにバトンタッチすると、単身京都大学吉田キャンパスにむかいました。

ちなみに子供は、この後5日ほど大阪のじじばば宅でわがまま放題をした後、ANAキッズらくのりサービスを利用して、飛行機で帰京の予定。


それにしても航空会社も面白いサービスを考え出したもの。運航中は密室になる航空便は、子供を持つ者にとっては縁遠いものになりがちだったけれど、この特性を逆手にとれば、送り迎えする者の連絡先を事前に申請させ、客室乗務員の近くに座席を配するだけで、子供の安全を保障することが可能になる(墜ちさえしなければ、ねw)。途中下車が多く、不特定多数が出入りする新幹線では、こういうサービスは成立し得ないわけです。

これにより親は同行する時間的経済的コストを免除されるし、子供は適度な自立心を養うことができる。そして航空会社はお客が増えるという、世に言うところのWin-Winが成立するのでございます。ANAだけでなくJALもやってるので、子持ちの皆さんは検討してみてはいかがでしょう。


それはともかく、セミナーの報告をしましょうか。どれもとても興味深く面白いものでしたが、ぼくにとって重要なのは安岡さん、川幡さんの報告でした。ここではこの2人に絞ってまとめます。

安岡孝一「JIS漢字案(1976)とJIS C 6226-1978の異同」

「JIS漢字案(1976)」とは、1974年5月に発足した漢字符号調査研究委員会(委員長森口繁一)が作成したもので、いわば78JIS(JIS X 0208の1次規格)の原案の原案というべきもののこと。これと後日制定された78JISを比較検討し、異同を明らかにしたのが、ここでの安岡さんの報告。

JIS漢字案の文字表を見ると、活字の切り貼り、和文タイプ、手書きが混在しており、その苦労が忍ばれる。また区点配列での親字は、すべてが手書き。しかも途中であきらかに書き手が変わっている(これがヘタというのがまたご愛敬)。また、委員会のメンバーは3分の2以上異なっている(委員長、林大、元岡達、西村恕彦など11名が同じ)。

縦横94×94であるのは78JISと同じ、また第1水準が五十音順、第2水準が画数順という配列ポリシーも同じ。しかし詳細に見ていくと違いは大きい。その一々の詳細はセミナー資料を参照のこと(問い合わせれば入手は可能なはず)。

多くの違いの中でも興味を引くのは、後に常用漢字表となるものの原型である「新漢字表試案」(1977年)に関わると思われる、以下の5文字の異同。

(※以下、JIS漢字案→78JISの順)
〓(L+人の「褐」)→褐:(19-76)字体変更
罐(20-44→70-44)/缶(41-71→20-44):区点移動
挾(22-21→57-49)/挟(57-46→22-20):区点移動(入替)
螢(23-53→74-05)/蛍(73-48→23-54):区点移動(入替)
插(33-62→57-71):入替/挿(33-62):追加

これがどうして新漢字表試案に関わるかというと、78JISについて書かれた西村恕彦「漢字のJIS」(標準化ジャーナル 1978年5月号)に以下のような記述があるから。

ただ、これだけの手法で機械的に選ぶと不釣り合いになるおそれがあったので、内閣訓令等に根拠を有する漢字として、当用漢字表、同補正案、人名用別表、地名コードのJISにある漢字を、系統的に補充した。原案作成の採取段階で、新漢字表紙案が公表されたが、その漢字はすべて第1水準の中に含まれていた。(3.1 文字の選定)

つまり、西村の書いたように〈その漢字はすべて第1水準の中に含まれていた〉のではなく、実際には「第1水準に含まれるよう修整した」のが真相ではないか、というのが安岡さんの仮説。つまり、常用漢字表に含まれるであろう文字については、78JIS作成の時点であらかじめ略字体(常用漢字表の字体)を第1水準に、いわゆる康煕字典体を第2水準に動かしておいた、ということです。

面白くなってきませんか? そうなると、俄然気になることがあります。そう、78JISでは、上記の他にも後に常用漢字表に入る当用漢字表外字があるけれど、「嫌、溝、遮、逝、栓、濯、塚、扉、頻、泡、癒」の11字は、いわゆる康煕字典体のまま例示されているわけです*1。これらは何故、上記5文字のように略字体で例示されなかったのか????

安岡さんの答えは「今は分からない」でした。今後の安岡さんの研究が待たれるところであります。いやあ、わくわくした!


なお、この安岡さんの発表については以下も参照。


川幡さんの発表まで書きたかったけど、時間がなくなってしまった。これはまた今度にさせてください。

  • 訂正

安岡さんご本人の指摘により、文中の〈後に常用漢字表に入る当用漢字表外字〉の例として挙げた字を、以下のように訂正します。

    • 訂正前:78JISでは、上記の他にも「嫌、棚、泡、塚」など、後に常用漢字表に入る当用漢字表外字があるけれど、これらはいわゆる康煕字典体のまま例示されているわけです
    • 訂正後:78JISでは、上記の他にも後に常用漢字表に入る当用漢字表外字があるけれど、「嫌、溝、遮、逝、栓、濯、塚、扉、頻、泡、癒」の11字は、いわゆる康煕字典体のまま例示されているわけです

*1:このファイルのうち、「常用83」「人名83」の文字を参照。