このデザインの肝は、文字と吹き出し

最初に青木に説明した際のラフ


11月10日の項で「この本で私が最初に考えたデザインの ”肝“ は文字ということになる」と書いた。じつはこれは半分しか言っていない。


それはともかく、通常ブックデザインはタイトルから出発することが多い。じつのところ、いくら内容が良い本でも、タイトルが悪ければデザインも悪くなるのが普通だ。それだけタイトルはデザインを規定してしまう重要な要素なのだ。だからちょっと迂遠だが、ここでもまずタイトルのことから始める。


この本は連載タイトルを『女子(秘)パソコン事情』という。ただ、これは当時の編集長が名付けたもので、必ずしも下請け担当編集者である私や、作者である奥さんの意に沿ったものではなかった。


そこで単行本化に当たって、作中よく使われている『みつえ日記』に変更することを提案した。編集者は週刊アスキーという大部数を売り上げている媒体に載っていることが、この本の売りと考えているようで、強く抵抗したが結局は原題をサブタイトルとして残すことを条件に了承してくれた。なお、版型はA5正寸である。


上で述べたとおり、私は最初からこの本のデザイン・テーマは文字をいかに見せるかという所においていた。その一番単純な実現方法はタイトルを大きく入れることだ。しかし、タイトルを大きく入れ、その上帯まで巻くことになれば、ビジュアル要素を入れるスペースがなくなってしまう。ビジュアルのないマンガ本などおかしいだろう。そこで帯そのものを天地3分の2という大振りなものとし、そこに大きく「みつえ日記」と入れ、これ以外をビジュアルスペースとして確保するるというデザインを考えた。


しかし、良いブックデザインは内容が類推できるものでなくてはならないはずだ。この本はマンガエッセイ集なのだが、これだけでは何の本か分からないだろう。さて、どうするか。


私は1980年代後半から1990年代後半まで、夏目房之介さんに寄り添いながら、単行本編集者として彼がマンガ表現論を完成させるのを手助けしてきた。いささか拙いものながら、その理解に従えば、マンガを因数分解すると、

  絵、吹き出し、文字、コマ

となる。この中で、吹き出しとは絵と文字をつなぐ役割を果たし、かつそれ自身が絵としての属性も持つ。そして吹き出しはマンガに特有のものだ。つまり、吹き出しとはマンガ表現そのものの暗喩になり得る。だからこれを使いさえすれば、何も言わずともマンガの本に見えるのではないか。これをデザイン要素として使わない手はない。帯一杯に大きく入れた「みつえ日記」というタイトルを、吹き出しで囲むことにしよう。


そして、イラストは上3分の1に比較的小さく入れる。もちろんこのように小さく入れるやり方は、マンガ本としては異例だ。たしかに、内容がストーリーマンガだったらおかしい。でも、この本はエッセイなのだ。絵の要素が相対的に低いエッセイならば、絵を小さく入れた方がかえってそれらしくなると私は判断した。


このようにして、このデザインの骨格ができた。上は、スタバかなんかで初めて青木にラフデザインを説明した際に描いたもの。たしか5月くらいだったのではないか。話しながら自分達で色々書き加えていったので、ちょっと分かりづらいか。じつは、このデザインにはもう一つ、ちょっとしたギミックがあったのだが、それは次回の話にしよう。