私がブックデザインをする意味

上は個人的な事情だ。それ以外にもう一つ、この本には個人的な事情があった。妻と私は共同で会社を設立しており、会社は妻から財産権としての著作権を買い取っている。つまりマンガを描いたわけでも何でもないのに、私はこの本の著作権者なのだ(ま、連載の下請け担当編集者でもあるのですが、それはまた別の話)。


一般にブックデザインは商業美術に属すると言われている。商業美術の定義は色々可能だろうけれど、ひとまずクライアントから依頼される表現と言えるだろう。デザインに合わせて小説を書き始める作家など聞いたことがない。つまり、依頼されなければ表現がはじまらないし、依頼された場所からしか出発できない。デザインという表現は、たとえば画家が描きたい絵を描くというのとは決定的に違う場所に存在しているものだ。これが通常の意味でのブックデザイン。

ところがこの本の場合、そういう意味での依頼はあり得ない。もちろん私はまず最初に著者である妻に「ブックデザインやりたいんだけど」と言ったが、そこで了承をうけたら、もうお終い。出版社は作家が良いと言っている以上、あえて反対する理由はない(しかし版元の担当編集者は私が「やらせて」と言ったら、たいして考えた様子もなくあっさり了解してくれたが、私のデザイン能力について不安はなかったのだろうか?)。

そのような特殊な成り立ちを、この本のデザインはもっている。著作者ならぬ著作権者がブックデザインをやると、どうなるのか? 以降の私の文章は、そんな興味をもって読んでもらえるとうれしい。