漢字小委員会が第二次試案を了承

本日午前10時より学術総合センターにて第37回漢字小委員会が開催され、第1次試案で追加字種191字とされていたものから4字を削除、新たに9字を追加する内容の第2次試案が了承されました。

これで追加字種は196字、削除字種は5字となり、結果として第2次試案では合計2,136字になります。(追記参照)

なお、新漢字表の名前については、目安という基本的な性格が変わらないことから「常用漢字表」のままとし、答申の名前として「改定常用漢字表」をつかう案が了承されました。


配布資料は、いつものとおり小熊さんが公開してくれてますので、そちらを参照しながらお読みください。

配布資料の説明

議事録の確認のあと、氏原主任国語調査官による配布資料の説明。まず資料2「「新常用漢字表(仮称)に関する試案」の修正案」から。これは以下の4に分けられています。

  • ①「基本的な考え方」の修正案
  • ②「表の見方」の修正案
  • ③「字種・音訓・付表」の修正案
  • ④「本表」のページ見本案

①では「⑷漢字を手書きすることの重要性」の記述に追加がありました。これは東倉委員の提案になるもので、「情報機器を使った漢字の習得」という視点が導入されています。ただし、これ自体は「視角視覚のみの習得」といえますが、それは根本的には手書きと結びつけるものではないとする内容になっています。

つぎに②の「表の見方」の修正案。ここでは従来「字体の許容」をおこなう字に対してつけていた「*」をやめ、もっと目立つように[ ]で括ることに変更したことが挙げられます。

また都道府県漢字の読みが従来は音訓欄に1字下げで掲載されていたのを、新しく備考欄に注記することにしました。これは、たとえば「分」という漢字に対して1字下げとは言え音訓欄に「いた」と書かれてあると、そういう読みであると誤解されてしまうのではという懸念からの措置です。これにともない、前回の段階ではダブルアステリスクを「(付)字体についての解説」に関わる字に付けることになっていたのが、今回からアステリスクに変更になりました。

さて、③の「字種・音訓・付表」の修正案では、以下の字が新たに追加候補となりました。なお、とくに説明のなかった字はここでも説明を加えません。

  1. 哺:哺乳類という概念をあらわすのに必要
  2. 楷:楷書でしか使われないが、国語の試験などで表記に必要
  3. 睦:親睦、親睦会など
  4. (錮:法制局からの要望。一番要望が強かった。禁錮しか使われないが裁判員制度もあるので)
  5. 賂:法制局からの要望。賄賂で使われるが、賄は常用漢字なので賂も入れてよいのでは
  6. 勾:法制局からの要望。勾留。
  7. (毀:法制局からの要望。名誉毀損などで使われる)

このうち、カッコで括った6と9の字は、漢字ワーキンググループでも判断が分かれた字で、漢字小委員会で意見を聞くことになったものです。また、法制局から要望のあった字として、他に「瑕」「疵」もありましたが、この2字については前回反対意見があったので外されています。

削除する字種としては「聘、憚、哨、諜」の4字で、いずれも前回入れなくてよいという声があったのに応えたものです。

追加字種として最も要望の多かった「碍」については、障害者団体の意見が「障碍」を推進する立場、新語を作るべきとする立場、さらに交ぜ書きを推進する立場まであり、錯綜している状況から、もっと後で改めて考えるべきではないかという判断から外されました。

次に要望の多かった「鷹」については、固有名詞の用例が多いことが国語研究所のデータでも確認されたので見送られました。

反対に削除の要望のあった「鬱」に関しては、躁鬱の他にも鬱々、鬱血など多くの語を作り、読み取りの効率性の上からも削除しないことになりました。

最後に、資料3「「新常用漢字表(仮称)」の名称について」。ここでは名を伏せられた3名の委員から出された意見が掲載されています。

これまでの国語施策では基本的に性格の変わらないものについては「改定」をつけています。たとえば送りがなについては、答申の名前として「改定送り仮名」、内閣告示の段階で従来のままの名称である「送り仮名の付け方」が使われました。漢字ワーキンググループで審議した結果、「目安」という基本的性格が変わっていないことから、答申では「改定常用漢字表」、制定の際に「常用漢字表」とする、つまり名称を変えないことが提案されました。

協議

協議では前記①、②、③、④の順で、一つずつ了承を確認しながら進められました。ただし、全体的にあまり活発な意見の応酬はなく、低調な議論だったと言えます。

その中でも目立ったのは金武委員の意気軒昂ぶりでした。前回、長舌をふるって字体の統一を主張しましたが、結果としては今回その意見は通らなかったことになります。そこで出方が注目されましたが、「ここでさらに反対しても議論は平行線をたどるだけ、過去には退席事件もあったが、今回はこれで収拾すべきと考える」と発言、大人の対応を見せました。

それでも「いくら表外漢字が康熙字典体だからといっても、表内字になれば表内字の字体になるのが当然。それを好記事単体康熙字典体のままというのは、情報機器業界のコストを教育関係その他の世界のコストに転化するもの」とまことに強く主張しておりました。

他に意外に見落とされがちかもしれませんが、重要なものとして高木委員の発言が挙げられます。試案の「学校教育における漢字指導」に〈漢字の指導については(略)別途の教育上の適切な措置にゆだねることとする〉とあるのを指摘した上で、第二次試案でもこの姿勢は変わっていないか、たとえば教科書の書体についても教育関係にゆだねるという理解でよいのかと質問したのです。これに対する林副主査の回答は「その通り」でした。

これは教育関係者にとっては重要な発言でしょう。追加字種のうち、しんにょうをもつ「遜、謎」などを教科書体では一点にするのか、二点にするのか、という問題です。これは教科書体は手書きを映したものとすれば一点、あくまで印刷字体であるとすれば二点とでき、立場によってどちらでもありうることになります。これについての判断を答申で下すのか、それとも教育関係者、具体的には中央教育審議会にゆだねるのかは、ここではっきりさせておく必要があったと言えます。

ここまでで①、②は比較的すんなりと了承。③の字種、音訓の審議にうつります。ここでは内田委員が「碍」の字の復活を求めたのが印象に残りました。「しょうがい」の語を医学では「障がい」と表記するが、心理学では「障碍」を使う。これは害を与えるものではないからという理由です。そこで内田委員は、交ぜ書きは絶対に反対の立場から、「碍」を復活させてもらえないかとのことでした。

これに対しては各委員は押し黙ったまま。やがて松村委員がためらいがちに「いろんな意味で(判断に)自信はない」と断ったうえで、自分は「碍」については「融通無碍」と「碍子」の2語しか使われないこと、それに「碍」もさまたげる意味があることから、この問題は「ショウガイ」という語が持つマイナスイメージをどうにかしないと解決できないのではないか。多くの自治体が交ぜ書きをしているので、交ぜ書きも容認でき、今のところ「碍」は入れないでよいのではないか、と述べました。

こうした議論の後、林副主査から以下のような案が出されました。

  • カッコに入れて保留としていた「錮、毀」は入れた形にする
  • 削除候補はそのままとする
  • 「碍」については、今急いで結論を出さず、別途議論をすることにする。

このうち「錮、毀」を入れるのは、この2字をぜひ入れたいというよりも、パブリックコメントで意見を聞くために落とさないという意図です。この案が了承され、冒頭に書いたような決着となったわけです。

今回了承された第二次試案は、11月10日に開催される国語分科会で承認の見通しです。それから11月下旬から12月上旬にかけてパブリックレビューが開始され、答申は来年の3月か4月になりそうです。

追記(11月13日)

11月10日のエントリに対する、漢字好きさんのコメントにより、このエントリ冒頭部分に間違いがあることがわかり、以下のように修正しました。

  • 修正前

本日午前10時より学術総合センターにて第37回漢字小委員会が開催され、新たに9字を追加、4字を削除する内容の第二次試案が了承されました。
これで追加字種は従来からの191字に加えて計200字に、削除字種は従来からの5字に加えて計9字に増え、結果として合計2,136字になります。

  • 修正後

本日午前10時より学術総合センターにて第37回漢字小委員会が開催され、第1次試案で追加字種191字とされていたものから4字を削除、新たに9字を追加する内容の第2次試案が了承されました。
これで追加字種は196字、削除字種は5字となり、結果として第2次試案では合計2,136字になります。

漢字好きさんのご指摘に感謝し、読者の皆さまにお詫びして訂正いたします。