新常用漢字(仮)は、本当に2010年に答申可能か?


どうも常用漢字ネタは荒れますね。いえ、たくさんのコメントをお寄せいただくのはうれしい限りなのです。しかしまあ答申まで最低2年あります、じっくりいきましょうよ。じつのところ、延びる可能性だってない訳じゃないのです。




ここでちょっと表外漢字字体表の当時を振り返ってみましょう。これは1993年11月の国語審議会の第20期開始から審議がはじまって、第22期が終わる2000年12月に答申されました。*1


足かけ7年にわたる審議の大きな流れは以下のとおりでした。

  • 1993年11月……審議開始(第20期)
  • 1995年11月……「一つの考え方として(略)康熙字典体を本則としつつ、略字体については原稿のJIS規格や新聞などで用いられているものに限って許容していくという方向も考えられる」という一文をふくむ審議経過報告を発表(第20期)
  • 1998年7月……表外漢字字体表試案を発表、広く意見を募集(21期)
  • 2000年9〜11月……表外漢字字体表(案)を発表、広く意見を募集(第22期)
  • 2000年12月……表外漢字字体表を答申(第22期)


これが常用漢字表の答申となると、漢字表だけではないのでもっともっと複雑で長いものなのですが、ごくかいつまんで書けば以下のようになります。こちらはなんと足かけ17年。

  • 1964年……審議開始(第7期)
  • 1973年……当用漢字音訓表、送り仮名の付け方が内閣告示訓令(第11期)
  • 1977年……新漢字表試案を発表、広く意見を募集(第12期)
  • 1979年……常用漢字表案(中間答申)を発表、広く意見を募集(第13期)
  • 1981年……常用漢字表を答申(第14期)


つまり、表外漢字字体表の時も常用漢字表の時もパブリックコメントを2回実施しているんですね。新常用漢字表(仮)でもやはりこの程度はパブリックコメントをこなさないと、透明性という意味で味噌をつけることになってしまう。もしも本当に2回おこなうとしたら、今年中に最初のを実施しないと2010年答申は望めないでしょうが、さて、本当に可能なんでしょうか?

先日「もじもじカフェ」に参加したら、ちょうど漢字小委員会の委員でもある笹原さんも来ていてちょっとお話したのですが、「いやあ、時間がないですよ」とすごく焦っておられた。それはもちろん、上記のような先行する漢字表の審議経過をよくご存知だからでしょう。

とにかく17年かけた常用漢字表に比べれば、漢字小委員会の第1回委員会が2005年8月ですから、まだ足かけで3年程度。上記を見れば2010年まで5年で仕上げようという計画が、いかに破天荒なものかお分かりいただけると思います。議事録である「国語審議会報告」をよく読むと、表外漢字字体表では当初1998年の答申予定だったことが分かります*2。これがずれて2000年に答申となった*3。それからすれば、今回も2010年答申という日程が守ることができるとは考えない方が良いように思うのですが、皆さんはいかがお考えでしょう。

*1:本来の審議開始は、1991年9月〜1993年8月までの第19期でワープロ等に使われる漢字字体の問題――つまり83JIS問題を解決する必要性を指摘したところまで遡るべきかもしれませが、ここは直接表外漢字字体表そのものの審議として数えましょう。

*2:第21期、p.96

*3:まあ、本当に1998年に答申できていれば、JIS X 0213もずいぶん違うものになったでしょう、もちろん2004年改正も……という話はまた違う主題となります。