ビル・ゲイツ来日記者会見/Windows Vista説明会へ

ゲイツさんも年取ったなあ


今日は朝9時から、渋谷セルリアンタワー東急ホテルマイクロソフトの記者会見。

わざわざビル・ゲイツが来日して、来年始めに発売が予定されるWindows Vista のお披露目をするという。これは行かないとね。集まった報道陣の数はどのくらいだったろう、おそらく400人以上ではないか。地下2階の広いボール・ルームがぎっしり満杯、最後尾にはテレビカメラがズラリ。マイクロソフトのスタッフの表情にもとくに緊張感がみなぎっていた。やはりゲイツ氏が来日するというのは特別なことなのでしょう。


当日の進行は、第1部として冒頭から30分が『日本におけるイノベーション』と題するビル・ゲイツのプレゼンテーション。つづいて質疑応答が10分間。ここでゲイツ氏は退場。

次に第2部として9時50分から12時ちょっと前までがWindows Vistaの紹介。これは3つのセクションに分かれていて、シアトルから来た本社幹部による総合的な説明の後、コンシューマー向けとエンタープライズ向けの、それぞれのエディションの説明と最新ビルドによるデモンストレーション。

ところで3時間もの間に休憩なしという強行スケジュールはちょっといただけない。5分や10分ブレイクを入れても何が変わるわけでなし、もうちょっと余裕をもてばいいのに、これではトイレにも行けない(勝手に中座して行けってこと?)。

さて、ゲイツ氏に関して興味深かったのは、会見の最後、TBS記者による質問(若い記者で事前に用意してきたのだろう、メモの棒読みが初々しかった)に答えた際のこと。曰く、昨今の日本においては放送と通信の融合がよく叫ばれているが、アメリカではAOL/タイム・ワーナーのように必ずしもうまくいってないように思える。こうした放送と通信の融合についてどう思うか?

これについてゲイツ氏は、That's very good question. と言った後、概略次のように答えた。確かにそうした融合は進むかもしれないが、だからといって1社だけがこれに関わる訳ではない。しかしかつてのIBMはそうだった。ソフトウェアからハードウェア、ソリューション、なにもかも自分達だけでやろうとした。しかしマイクロソフトは違う。我々はプラットフォームを提供する。ビジネス・パートナーが我々のプラットフォームの上でサービスを提供し、そうしたコラボレーションにより融合が進んでいくのだ……。

このやり取りの内容そのものには新味はない。マイクロソフト自身が「我々はプラットフォームを提供する」と自己定義すること自体は目新しくもなんでもないからだ。これは昔からマウスやキーボードは作っても、PC本体は絶対に作らない理由として繰り返し言われてきた。また、この日の別の記者からGoogleと比較した質問をされた際にも、このプラットフォームの論理で答えていた。つまり、プラットフォームとは彼等の原点なのであり、これさえあれば何にでも対応できるドラえもんのポケットのようなものなのだ。

しかし、以下のような情景を踏まえるとき、新たな意味が浮かび上がるように思う。1つはこの質問をうけたとき、それまで比較的無表情だったゲイツ氏の顔色が、パッと明るくなったこと。「よくぞ聞いてくれた」というところか。「very good question」は、その後に出た言葉だ。

次に、ゲイツ氏につづく、社員達のプレゼンテーションの中でも、必ず「ビジネスパートナー」を重要視していることが繰り返されたこと。例えば本社幹部のセッションでは、日本市場の重要性を列挙する中で、市場規模の大きさ以外に「日本にはグローバルパートナーが存在すること」を指摘していた。また、コンシューマー版のVistaにおいては東芝EMIWarner Music Japan、OCN Music Store等と提携しビデオや音楽のダウンロードサービスを開始するし、またエンタープライズ版では、LAC社と提携したセキュリティー・サービスを提供するのだが、これらサービスを説明する際、必ず「ビジネス・パートナー“様“との協業」を強調していた。

さらに振り返るなら、この日のゲイツ氏のプレゼンテーションそのものが、今年20周年を迎える日本法人が、かつて幸運なスタートをきれたのはアスキーNECなどとの親密なパートナー・シップのおかげとしたり、Windows Vistaにおけるパートナー各社との成果を紹介したり、だめ押しするように最後に目標の一つとして日本におけるパートナーシップを挙げたりと、あちこちで「パートナー」を強調するものだった。

つまりゲイツ氏にとって、この会見でぜひともアピールしたいキーワードこそが、「ビジネスパートナーとの協業」だったのであり、質問の「放送と通信の融合」云々はどうでもいい、と言って悪ければ、この点を再度繰り返すための刺身の妻のようなものだった。あの「very good question」とは、そういう意味だったのではないか。

それにしても、以前はパートナーに言及はしても、ここまで合唱連呼することはなかった。もしかしたら、マイクロソフトは従来からの「プラットフォーム」観の再定義をしようとしているのかもしれない。もう一人勝ちはできない。自分が生き残るには他社との連繋が必須なのだ。それだけ背中にひたひたと迫ってくるものを感じているのだろうか。

この“変身”がどんな結果を生み、われわれの生活にどんな影響を与えるのか。それは近いうちに、きっと嫌でも知ることになるのだろう。その時まで心の片隅にでもとどめておきたい。この日、コンシューマー版のWindws Vistaは、来年1月に発売されることが正式に発表された。