PAGE2006のセッション事前打ち合わせ

今日、JAGATに行って、PAGE2006でやるセッション「日本語文字セットとフォントの新しい環境」の事前打ち合わせを、スピーカーの阿南さん、山本さんとしてきた。その席で配布した僕のレジュメ(なのかな?)を以下に公開。


これでも分かるとおり、僕は2004年改正にはかなり批判的。同様に山本さんも改正の公開レビューから変わらず批判的。一方、新JCS委員会で幹事までやった阿南さんは、批判に対して真っ向から受けて立つ姿勢。とはいえ3人に共通しているのが、1983年改正のような混乱は、絶対に回避しなきゃいけないということ。……さて、本番はどうなりますか。


日本語文字セットとフォントの新しい環境

小形克宏(2005.12.22)


●「字体の混乱」の実体とは

・よく言われるJIS X 0208の1983年改正による混乱とは、符号位置入れ替えによる文字化けもさることながら、例示字体変更によってフォントの字形に略字体を実装するメーカーが増え、結果として伝統的な字体をつかうことができなくなったことによる混乱という側面が大きい(かつての日本文藝家協会のキャンペーンもこの趣旨)。

・現在もパソコン等の電子機器では、「鴎」「溢」「掴」等、伝統的な字体を簡単には使えないという意味では、83JISの混乱はまだ続いていると見ることもできよう。

・表外漢字字体表は、主として伝統的な字体を印刷標準字体として推奨するものだ。そして改正JIS X 0213の主眼は、例示字体をこの印刷標準字体に変更するところにあった。


●印刷標準字体の実装だけで混乱は解決するか

・では、改正JIS X 0213の例示字体にもとづき、従来の略字体を印刷標準字体に置き換える実装が普及すれば、本当に83JISの混乱は収束するのだろうか?

・実際に改正JIS X 0213の追補規格票「解説」では、印刷字体に置き換わることによる混乱を、「一時的な混乱」であり「避けて通ることのできない過程」としている(p.35)。

・しかし私自身は、そうした考えに組みしない。なぜなら伝統的な字体「だけ」を使えるということは、従来の略字体を使えなくすることに他ならないからだ。

・一度社会で使われるようになった字体に対する愛着が、追補規格票が言うように簡単に消えてなくなるとは思えない。とくに人名や地名など固有名詞の文字においては。

・印刷標準字体を推奨する表外漢字字体表は、言語規範として尊重されなければならないだろう。表外漢字字体表が膨大な使用頻度調査の末にまとめられたことを考えると、たしかにそこで希望されているように、社会は印刷標準字体に統一されるべきだと思われる。

・しかし、だからといって印刷標準字体「だけ」を押し付けるような実装が普及すれば、別の混乱が発生するだけだろう。



●混乱の収拾に本当に必要なものは?

・そこで必要なのは、伝統的な字体と略字体の両方の使い分けを可能にする実装であろう。さらに言えば、そうした使い分けをしたまま情報交換を可能にする技術であるはずだ。

・ところが伝統的な字体も略字体も、JIS X 0213が規定する包摂の範囲内に収まる。つまり、じつは文字コード規格にとって、もとから伝統的な字体と略字体の使い分けは不可能な話だったのだ。改正JIS X 0213の不幸はここにある。

・そこで要請されるのが「包摂の範囲内で字体を使い分ける技術」であり、「包摂の範囲内の字体を情報交換する技術」ではないか。

・上記2つの両方を実装することにより、はじめて伝統的な字体と略字体は併存することができる。

・前者の技術としては、真っ先にアドビシステムズマイクロソフトによるOpenTypeフォント技術が挙げられるだろう。無論それだけでなく、OSにとってはAPIの整備も必要だろうし、入力手段として日本語入力ソフトのサポートも必要だろう。このあたり、Windows Viataではどうなるのか、注目が集まるところだ。

・後者の技術としては、現在はアプリケーションデータとして情報交換する方法がある。このドキュメントがそうであるように、マルチプラットフォームで普及がすすむアドビシステムズのPDFは現在もっとも有力な技術だろう。

・ただし、プレーンテキストで情報交換ができる以上の利便性はない。その意味では現在アドビシステムズ他によって提案されている『UTS #37 Ideographic Variation Database』に期待が集まるところだ。

・今回PAGE2006のセッションでは、ここまで述べたような背景にもとづき、各社に自社技術を解説していただくこととしたいが、いかがであろうか。