ちょっとしたギミック

上はデフォルト、下は帯を上にずらした


毎度へたくそなラフで申し訳ないが、右を見てほしい。これは7月、版元の編集者にデザインを説明した際に描いたもの。


ちょっと説明すると、上のは15日の項で示したラフと基本的に変わらない。つまりA5版の3分の2サイズの帯がかかっており、そこには大きく吹き出しが入り、その中にタイトルが収まる。上3分の1、帯から顔を覗かせたカバー部分にはイラストが入る。このラフではイラストは顔となっており、帯がかからない部分のカバー地色は赤だ。右に引き出し線が引かれているが、これはタイトルの「みつえ」の部分が小さくなり、「日記」の部分が大きくなるかも――ということを説明している。



ところで、顔のイラストのすぐ下に吹き出しの尻尾の先があるのにご注意。つまり、顔が「みつえ日記」としゃべっている、ということなのだ。


で、下のは帯をそのまま上にずらした状態を示す。この部分のカバー地色は青であり(つまり、上半分が赤で、下半分が青ということ)、別の顔イラストが出現する。よく見ると、この新たに出現した顔がしゃべっていると見えるよう、吹き出しの下部にも尻尾がついている。


つまり、上の顔はちょっとよそ行きの顔、そして下の顔は(私、絵が不調法なもんで、分かりづらくてすいません)目玉がグルグルしているような崩れたギャグタッチの顔。要するにこれは、帯をずらすことによって2つの状態を表せる、いわば2コママンガになる――ということなのだ。


じつを言うと、このアイデアを著者に説明したとき、彼女は「アイデアとしては分かるけど、何を描いて良いか分からない。イメージがわかない」と言って反対した。ところが、同じアイデアを版元の編集者に説明したら大受け、「それ、面白いですよ!」と言ってくれた。デザイナーとしては、このデザインの「肝」は他にあり、これはあくまでギミック。あっても面白いけど、なくてもかまわないという程度のものだった。ところが編集者が大賛成してくれたことにより、著者の反対はそのまま、なんとなくこのアイデアでいくことになった。


もう少し説明すると、たぶん私は不安だったのだと思う。帯に吹き出しを入れるのは良いとして、これをカバーのイラストと何か関連づけなくてよいのだろうか?


表現論的にいうと、もともと吹き出しは非常に面白い属性を持っている。これにはたいてい尻尾がついており、これにより発語者を指定できる。ところが、この尻尾の先を付け替えるだけで、言った言葉はそのまま、別の人が喋ったことに出来たりする。これは吹き出しの偉大な属性なのだ。これを利用して、イラストと帯のタイトルを関連づけ、さらにギミックにすることを思いついたという訳なのだ。


もっとも著者がこのギミックに反対している以上、そのままの形では終わるはずがないのだが、最終的にこのカバーイラストがどうなったか、それを話すのは、もっとずっと後のことになる。