戦争の法

戦争の法


このブッキングという出版社は、「復刊ドットコム」というサイトを運営していることで知られる。こいつがなかなか侮れなくて、一回ここで買うと毎週届くようになるメールマガジンを読みはじめると、あら不思議、二回に一遍は何かしら本を買ってしまうことになる。

この本も、そうして買った。つまりこれは復刊本だ。今まで何度も復刊ドットコムで本は買ったことはあったが、ブッキング自体が復刊した本は買ったことがなかった。


届いて最初に気づいたことは、復刊なのに初出が明記されてないこと。これはおかしい。思わず以下のようなメールを出しちゃった。

貴社出版にかかる『戦争の法』を買わせてもらいました。これから読むのが楽しみです。ところで、帯で「復刊」を謳うこの本の初出表示が見あたらないのは、どういうことなのでしょう。これは「出版の法」のごく初歩を犯していることのように思うのですが。テキストの出自をきちんと表示することは、読者に対する礼儀ではないでしょうか。

俺も嫌味な人間だよね。しかし、返事はなし。
それはともかく、これはとても面白い小説だ。もともとパルチザンには惹かれるものがあって、坂口尚『石の花』なんかが大好きだった。この本の出版当時、やはりパルチザンに材をとった半村良の小説と一緒に本屋に並んでいたのを見て、迷った挙げ句、半村良の方だけ買ったことを覚えている。でもちょっと期待はずれだったこともあり、なんとなく『戦争の法』の方も読まないままに終わっていた。いやはや、とんだ間違いで、最初からこの本こそを買うべきだった。自分の不勉強が恥ずかしい。文体の吸引力が気持ちよくて、他の作品に読み進もうと思った。

ただ、内容はともかくとして、造本で気になることが多い。作者には失礼かもしれないが、以下そっちの方のみ書く。

  • 小説としては本文書体(ほんもんしょたい、と読んでね)が太い。
    • フォントはリュウミン、おそらくRだろう。
      • じつは調べるまでMだろうと思っていた。でもMにしては細いし、Lにしては太い。
      • ずいぶん前にRで本を作ったことあるけど(とり・みき『マンガ家のひみつ』)、こんなに太いとは、今更ながらぴっくり。
    • この太さはエッセイや実用書などの短文集向きではないか。集中を要する長編小説の本文書体としては疑問。
    • 長編小説ならもっと細いL、JISで言うところのW2程度が望ましい。
    • もっとも、これだけフォントが出そろった今の時代に、リュウミンで本文を組むセンスは、これまた疑問。
  • 下柱がやたらと大きい。
    • 12Q。本文が13Qだから、ちょっと驚くほどの大きさだ。普通は9Qくらい。
    • これだけ大きいと、本文が柱に近づいた所で視線が引っ張られてしまう(つまり毎ページごと!)。集中が妨げられる。
  • 目についた限りでは印刷標準字体を意識的には使っていない。
    • 独断と偏見だが、経験のない出版社の本はこうなる。とくにDTPの経験しかない出版社。
    • 一方で、写植の時代から本を出している会社、とくに小説を出している会社は、印刷標準字体を比較的多く使う。
    • 俺がジジイというだけかもしれんが、小説で「溢れる」とか「掴む」とか書かれると興醒めだ。
    • 新字体が好きであえて選択したのだろうか? それなら好みの問題となり、文句はない。
    • でも他の点を考慮に入れると、そうではないはず。字体について無自覚なだけであり、それこそが問題なのだ。
      • 印刷標準字体については、以下のurl「国語表記の規準・参考資料」→「表外漢字字体表」を参照。
  • ジャケットのイラストは、ちょっと抽象的すぎないだろうか?
    • もうちょっと作品世界をイメージできるような工夫があってもよいと思う。
    • どうも、これに限らず読者を作品世界に誘引する仕掛けに不足しているように思うのだが。

総じて言えることは、この本を作った編集者、およびデザイナーの経験の少なさが見て取れるということ。これではちょっと、作者がかわいそうだ。