答申後に変更された改定常用漢字表

ご無沙汰しています。ふと振り返れば、今月初めての更新ですか。改定常用漢字表の方はというと、5月19日の第44回国語分科会をへて、6月7日に開催された第51回文化審議会総会にて何事もなく承認、文部科学省の坂田事務次官(川端文科相代理)に手渡されました。

ぼくが初めて傍聴したのが、たしか2006年の第7回漢字小委員会だったのではないかと思います。あれから4年、これほど長く傍聴を続けた審議会は初めてで、個人的にも感慨深いものがあります。

さて、その答申ですが、現在以下でダウンロードできます。

ところで答申の公開が始まったのは、たぶん総会の3日後、6月10日午後のことだと思います(この日の深夜、答申の公開を知らせたぼくのツィート)。

ところが、なぜかすぐに公開は中止されます。これが再開されたのが、おそらく6月15日午後のこと(ぼくのツィート)。

最初に公開されたバージョンとどう違うのだろうというのは、おそらく誰もが抱く疑問と思います。まあ、しかしそこまで細かく見るヒマもないし……と思っていたら、世の中には親切な人がいるもので、ほら、ここが違ってましたよと、或る方が教えてくださいました。

それはPDFファイルをテキストに書き出してdIffをとったもので、つまり符号位置レベルの相違です。だから、おそらく数カ所あるであろうグリフの変更点(たとえば止めと払いの不整合等)までは分かりません。ほとんどは間違いの修正かスペースの有無などで、さしたる問題はないと思えるのですが、1ヵ所だけ、これは見過ごしにできないと思った相違点を報告しておきます。

具体的にいうと、それは「II 漢字表」冒頭「1 表の見方」の項番12の(3)の部分です。分かりやすいよう時系列で、3つのバージョンの該当部分を並べましょう。


6月7日の文化審議会総会で配布された答申案(PDFでp.33)



6月10日に公開された答申(PDFでp.34)



6月15日に公開された答申(PDFでp.34)

お分かりでしょうか? 総会で配布されたものと、最初に公開された版は一致している一方、これらにはあった〈「芽⇔牙」〉の例が、15日に公開された版から消えています。

念のためにいうと、文化審議会総会を傍聴した際に受け取った答申案にも、〈「芽⇔牙」〉の例は掲載されています。つまり、この日、文部科学大臣に提出された答申の正文にも、これは掲載されていると考えてよいわけです。

この変更自体はささいなものであり、個人的にはこれが無くなったからといって、趣旨に大きく影響が出るほどのものとは思いません。しかし、答申後に変更された点は見過ごせないように感じています。

例えて言えば、期末テストの提出後に、「ま、このくらい良いよね?」とばかりに、教師に内緒で答案をちょこちょこっと手直ししちゃった、というものです。つまり変更の大小にかかわらず、これは「ズル」です。

答申案を了承した審議会委員は、この変更を知っているのでしょうか? 答申を受け取った文科相としても面白かろうはずがありませんし、ひいては彼を国民の代表として選んだ選挙民を愚弄するもの、とまで言うとさすがに言い過ぎですか。

しかし、もしこれがないことにされれば、今後文化庁が事務局をつとめる審議会では、答申後に恣意的な手直しがされる可能性がありますし、そもそも今までも同じことがあったのでは? という疑問までふくらみます。

ともあれ、文化審議会、ならびに事務局である文化庁は、一刻も早く変更したこと、ならびにその理由を広く告知すべきと考えますが、皆さんはいかがお考えでしょうか?