『基本日本語活字見本集成本OpenType版』のこと (1)

3月9日のエントリでも書いたように、下記の本に20ページほど原稿を書きました。

イデア5月号別冊『基本日本語活字見本集成本OpenType版』
誠文堂新光社
A4判
全640ページ
4,410円(税込)


ぼくの手元には今週はじめに届いており、ネットで買えるようになったらブログで紹介しようと思っていたのですが、いまだに「そんな本はない」と言われます。でもこの数日で本屋さんの店頭には並んでいるようですね。このご時世にネット書店を無視するとは、なかなかいい度胸です。


それはともかく、自分としてはここ数年の仕事の集大成のようなつもりで書きました。3センチを超す厚さとこの定価では、おいそれと買ってくださいとは言えませんが、これから何回かに分けて、書こうと思ったこと、そして力及ばず書けなかったことを誌しておこうと思います。レジに持っていかないまでも本屋さんで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。まあえらく重いから立ち読みはしんどいんですけどね。


ちょっと裏話めきますが、ぼくの担当部分は2色をおごってもらっているのですが、特色は校正で見たときよりもずいぶん淡い色になっています。おそらく刷り色を変更したと思われますが、細いフォントなどは、ちょっと目をこらさないと見えづらくなっているのが残念。


それから、これはぼくが直接担当したわけではありませんが、Adobe-Japan1-5の全文字(CID=1〜20316)を、簡単なコメントを付けて掲載していますが、これはこの本のセールスポイントの一つだと強調しておきます。もちろんアドビシズテムズのサイトでAdobe-Japan1-6の仕様書は無償公開されてはいますが、これは英語で書かれており、また決して読みやすいとは言えない体裁です。この本でAdobe-Japan1-5を全部掲載すると聞いたとき、ぼくは簡単でよいからソース毎に簡単なコメントを付け、読者が自分なりにインデキシングしつつ理解できるよう主張しました。こうすることで、「なぜこの漢字がここにあるのか」が分かるようになり、一見しただけでは鬱蒼たる森の如きAdobe-Japan1-5の文字セットが、初めて表情を持つものとして我々の前に立ち現れてくるからです。


また一時このページをより一般的なヒラギノ明朝で組むという話が出たとき、ぼくはかなり強く小塚明朝でなければ信頼性を担保できないことを主張しました。仮にヒラギノ明朝でAdobe-Japan1-5を表しても、それはヒラギノとしての実装解釈を示したにすぎず、仕様制定者の本来の意図が見えなくなってしまいます。Adobe-Japan1は文字コード規格ではなく、あくまでも「グリフ」セットなのですから、小塚明朝のタイプフェイス・デザインを前提とするのは自明の理であり、その意味で小塚明朝で掲載されたことは至極当然と言えるでしょう。


解説を担当されたのは自らAdobe-Japan1の専門家を名乗る直井靖さんで、その内容は折紙付きです。まだ噂に過ぎませんが、マイクロソフトAdobe-Japan1-5対応を検討しているとの話が流れている昨今、これは非常に貴重なコンテンツになりうると思います。


さて、ぼくが直接かかわったのは以下の部分。


いずれも見開き2ページで1テーマが基本で、文章は1,200字程度。いきおいビジュアル(図版)重視ということになります(中には途中で2見開き分を1見開きに押し込むことになったページもありますが、それはイレギュラー)。あまり評価していただいたことはありませんが、個人的にはこれまでいつも図解に力を入れてきたので、この制限はむしろ願ったり叶ったりというものでした。元になる図はかねて愛用のOmniGraffleというアプリで作成しました。たとえば以下のように。



これを本番ではデザイナーがデザインし直してくれたのですが、どのようになっているのか、実際に見比べていただければと思います。


ところでこの原稿を書くにあたり、いくつか先行研究を参照させていただいたのですが、それについては次回書くことにしましょう。